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狩猟小説『ダック・コール』(稲見一良)、今年の初サイクリング

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元日夜には自宅に戻って、あとは数日のんびり休み。
夜に窓の外に雨音を聞いた気がして暗い寝所で天気予報を見たら、明日2日は雪混じりの雨とされていたから、じゃあ寝坊しちゃえと決めて布団に潜った。

 眠って見た初夢は、建設したばかりの滑走路の途中に、ある日ふかふかした緑の小高い丘が盛り上がってきたというケースを確認しに行く夢だった。
 一体どういう訳で急に隆起しちゃったんだろう、地盤調査が必要かな、しかもこの隆起の表面の藪の感じってどういうことなんだ、歩き難いな……と調査書を片手によじ登っていたら、足元の叢から薄緑白色の小鳥たち(not メジロ、もっと淡い青みの緑で親指ほどの大きさしかない知らない鳥だ)がピチュピチュ飛び立つ。うわ、と少し避けたら、ガサッと足元が沈んで、不思議の国のアリスばりに軽く2,3mほど落下した。
 どうも丘と見えたものは中空で、その内部に森を隠し持っていた模様。というより、急にニョキニョキ伸びてきた小型の森の表面に蔓やら草やら絡んだのが丘の地面のように見えていただけかもしれない。
 落下した林床から上を見上げると、差し込む光が草や葉を通して薄緑色だ。丘の内部に密に茂るほっそりした竹のような木々の奥の方に、また例の薄緑白の小鳥たちが囀りながら飛び交うのが見えた。ふと思う、鳥に見えるけれど、あの色、あの小ささ、もしかしたら虫の擬態かもしれないな。で、ノートに書く、隆起内部に空間アリ・要探検、っと。

……と、吉凶も定かでない無意味な夢だが、正月中に鳥にまつわる短編集を読んでいた影響かもしれない。で、ベッドから抜けて、双眼鏡を首にかけて、夫を誘ってバードウォッチング・サイクリングに出かけた。外は寒いけど晴れてて、天気予報はハズレだったっぽい。

それで自転車飛ばして、色んな鳥を見た。うう、寒い……お腹が空いた……もう帰らないか……と震える夫と途中の市場で食べたタコの唐揚げとカニクリームコロッケが温かく五臓六腑に染み渡る。それで再び意気軒昂、美味しそうな大きな魚も買い込んで、真っ暗になってから家に到着、晩御飯は熱々の鍋にした。途中でポツポツ冷たい雨が降ってきたから、天気予報はやっぱり当たりだったかな。

こういう一日サイクリングってしみじみ楽しい。多分「遠征して→色んな獲物を見かけて→最後はずっしりした食材を持ち帰る」っていう行程が、古代からのハンティング欲を満足させるからじゃないかと思ってる。一緒に出かけた相手に対しては、いつも帰りにはバディ感が高まるのも、昔っから人間はこうやって狩りの仲間と関係性を築いてきたせいかもな……とか思いながら、じっと相棒の顔を見たりして。相手の心は知らず。
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正月に読んだ、狩猟小説とでも言うべき一冊、『ダック・コール』(稲見一良)。読んでいると、自分も野に繰り出して、自然の中で色んな鳥や生物を見たくなる。
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石に鳥の絵を描く男に河原で出会った青年の語りを<プロローグ><モノローグ><エピローグ>として配置しながら、その間に、青年が男の絵に触発されて見た夢という形で、鳥にまつわる六つの短編が挟み込まれる。

  • プロローグ:青年は、石に鳥を描く不思議な男に出会い、一夜の宿を貸す。
  • 第一話『望遠』:シベリヤ・オオハシシギに魅了された男がとった行動とは。男には〜自分の世界がある♫というルパンの曲が頭の中で響いた。でも仕事の後始末ということを考えると、自分にとっては一番ストレスフルな話。
  • 第二話『パッセンジャー』:リョコウバトの大群に遭遇した男の話。今は絶滅してしまったリョコウバトの血と肉と躍動を感じた。
  • 第三話『密猟志願』:河原の鳥たちを密猟する少年と中年男の友情と冒険譚。少年が魅力的で、中年男は甘過ぎだろ。
  • モノローグ:青年は、微睡の中で鳥の夢を見ていたことに気づく。
  • 第四話『ホイッパーウィル』:凶悪な脱獄囚人たちを追う男たちのスリリングなマンハント話。ターキーもハントされて道中の食事にされちゃうぜ、ハードボイルド風味。
  • 第五話『波の枕』:遭難した男が漂流中に遭遇したグンカンドリ&巨大オサガメとの、旅は道連れ話。
  • 第六話『デコイとブンタ』:少年ブンタに拾われたデコイ(囮狩用の鳥の模型)が話者となった一編。SFか御伽噺か。
  • エピローグ:青年は、男と別れる。

どれも詩情溢れていて面白く読んだが、遭難モノを常に偏愛する私としては、当然のように第五話が一番好きだったな。ちょっと『パイの物語』も思い出したりして。寿命って運だからどこで終わっても不思議ではないが、もしも終わらずに続いた場合には、必ず場は刻々と変動していくものだという方丈記にも通じる普遍の構造が可笑しみを持って短く語られていてクスッとした。わたしも大亀に会ってみたい!
老人は知っていた。雨風に耐えて待っていれば、やがて雲の切れ目から日差しがさしてくるもんだ。嵐の時が嘘に思えるあたたかい穏やかな日がまた続くのだ。そんなことを、もう何十回となく経験してきた……あれから五十年も生きたのだ。

解説では、著者の稲見氏は山本周五郎とチャンドラーを敬愛しているとあったが、まさにそんな感じの文体だった。
6つの短編は時代も国も全く違うが、どれも何らかの形で狩猟に触れており、生命への尊敬と愛を持ちながらも狩る・狩られるということをハードボイルドなトーンで描き出す。ただ、正月にはチャンドラーも読んでいて思ったんだけど……ハードボイルドを看板にした作品って、割と根底がウェットだったり感傷的なところがあるような……なんつうのかな、男の憧れ的な?……そこがちょっと自分にはくすぐったくて気になるかもしれない……という点は、この本にもちょっとあった。
著者は、チャンドラーのようなハードボイルドの一方で、ダールのジュヴナイル小説のようなファンタジーも書きたいというようなことを言っていた気がするが(うろ覚え)、そこの2名を並べたら、ダールこそ寧ろドライで皮肉屋、感傷無しのハードボイルドっぽい気がするけどな。


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by macchi73 | 2026-01-02 22:41 | ★面白かった本など | Comments(0)

東京の住宅地で試みる素敵ガーデン・ブログのはずだった。なのに昆虫の記事がダントツで多い。虫 & 植物 & 子供の記録。本は殆どブログのアフィリエイトポイントで買わせてもらってます。感謝!/【※】画面最下部の「表示モード」でPCレイアウト選択後、もう1回リロードすると広告無しにできます。


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