
曇天の週末。空がびっしり雲で覆われてて、どこにも切れ目がない。どんより薄暗い。
今朝は亀に餌を見せても、ゆらり足元に泳いで来ただけで水からは上がらず、くぷり、と小さな泡だけ出して億劫そうな挨拶だ。そろそろ冬眠の準備か。
灰色の光を受けて、庭では葉っぱが地面でも樹上でも灰褐色でカサカサしてる。例年だったら赤や黄に紅葉する賑やかな季節のはずなのに彩りが悪い。このまま今年は散るだけなのかな。


家の中でも、みな何かモソモソして、寒い……もう冬だ……とか呟きながら、布を被ってゴーストのようにさまよい歩いている。そして床に倒れたと思ったら、ダメだ床も冷たいよ……と半身になって青い顔で悲しそうに訴えてきたりする。弱りすぎ。
で、ちょっと早いかもだけどガスストーブ出して試運転した。加湿器もつけて。
部屋の空気が暖まったところで、押し入れから冬物のマフラーやストール、手袋、厚手の靴下なんかを引っ張り出して、革にはクリーム、毛にはブラシをかけて・広げて・叩いて・ふかふかにして、もう一回畳んでずらり箪笥に並べた。よーし、これで週明けからは首も手足もぬくぬくだろう。ハイ、これどうぞ、と裏起毛の靴下を渡したら、とたんに元気を回復する家族。ふふ、単純な生態。


それでセーター着て上着きて手袋して、ぐぐーんと都内の寒空の下をサイクリングした。冷たい灰色の海の下を回遊する、クジラの気持ち。
しかし冷たいのは剥き出しの頬だけで、体幹も末端もふかふか暖かいから、皮膚に当たる時々の冷たい雨滴や風が寧ろ気持ち良い。こんな風に彩度の低い景色の中に見える灯の方が、いかにも暖かそうで中に呼び込まれるような気分になる。
それで最近の習いの通り、途中で見かけた鎮守の森という森には全て迷い込み、商店街では寄り道しいしい美味しそうなものを摘み食いして、家族にお土産買って、最後は暗い庭の奥で光る我が家の赤い灯を目指して走った。あとは毛布に包まって温かいもの飲んで、食べて、本を何冊か読んで……寒い日には寒いなりの楽しみ。

* * * * *
暗い鎮守の森で古い神様たちにひっそり思いを馳せたりしてたら、なんか
ユルスナールの東方奇譚みたいな古代の幻想調の物語が読みたくなって、帰り道にジャケット買いして読んだ本。日和聡子、初めて読んだ。
和風の表紙を見て手に取り、ぱらぱらページをめくったら弁財天なんかも出てたので、タイトルを『法螺四千年記』って読み間違えて、これはきっと出鱈目古代神話的なものじゃないか?まさに今読みたい!って予想して読んでみた。そしたら違った。タイトルをよく見たら「法螺(ホラ)」じゃなくて「螺法(ラホウ)」だった。ぐるぐる捩れて螺旋を描く、短編の繋がり。
この本自体はピンと来なかったんだけど、あとがきに書かれていた感覚にはとても共感できたのと、同じく螺旋モチーフの黒田夏子の『abさんご』(←好き)とか幻想神話モチーフの『驚愕の曠野』(←大好き)とかも微かに思い出させるところもあったんで、知らない作者だったけど、もう一冊くらい読んでみたいな…… 自分はなぜ、いま、この瞬間を、今日を、生きていることができるのだろう。1秒後のことはわからないが、この時点を、何の、誰の、どうしたことのおかげで、しくみで、生きていることができるのか。(略)
いまは、今生も前世も来世も、此岸も彼岸というものもなく、すべては皆ひとつのものとして、つながり、めぐりめぐっているような思いがしている。その中で、ひとつひとつ、一瞬一瞬は交ざり合い、渦を巻いて、絶えず現れたり消えたりしながら、さまざまなすがたやかたちをとって、ずっとあり続けるものなのだろう、と。
(二〇十二年五月二十九日 作者あとがき)
でたらめ神話、読書中のBGM。
で、もう一冊。図書館で探して読んだ。こっちの本の方が、嘘民話っぽくて、最初読みたかったものに近かったかな。
こっちのタイトルは読めなかった……「ごめいさずかり、てんてん、ささめがやつゆき」。なんとなく、養老天命反転地を思い出したりして。
どこかの土俗神話の中の小エピソードとしてありそうな、人ならぬモノたちの道中記。タイトルや文体はコッテリ饒舌調……なんだけど、ちょっと筒井康隆や町田康の軽口風っていうのかな?濃い先達らに似た感じがありつつ、そこまで吹っ切れてない手習感があって、何か物足りない感じで読み終わってしまった。
だけど読んでる時にはあんまり面白いと思わなかった割に、読み終わってから、えーと、どんな話だったっけ……と思い返したら、筋はぼんやりしか残っていないのに、暗い竹林、向こうに見える温泉宿の赤い灯、袂で光る虹色の繭……夢で見たような景色が眼前にくっきり立ち上がって来たんで、あれ・意外と面白かったのかな?っていう気分にもなった。
作者は詩人もやってるようだから、物語の力よりイメージを伝える力が強いのかもしれない。

冬支度は足元から。むくむく・しっかり足を包んでくれて、これ履いてれば冬でも強気。
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