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2023年 02月 05日
1月は冷凍食品弁当、『木になった亜沙』(今村夏子)
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寒くなってくると、家の中がジャングルになる−−庭でお日様を浴びていた鉢植えたちが、霜にやられないように屋内に退避されるから。

外は乾いて寒くて落葉した木ばかりになっていくのに、扉を潜ると逆に家の中には緑が茂ってて、ちょっと面白い。

古い家だし暖房もない部屋が多いからそれなりに寒いんだけど、それでもやっぱり吹きっさらしとは違うってことだな。南洋山椒なんかも、こうやってもう15年近く生き延びている。寒さから守られて、でも日々人間たちに毟って食べられて、良いんだか悪いんだかかな。


……とか思っていたのは、もうしばらく前のこと。
あれっ、今朝はなんだか暖かい!6度もあるよ!という娘の声で、いつの間にか立春も過ぎてたことに気づく。なんだよー、家の中の冬季ジャングルも、もうそろそろ終わりじゃん。時間がたつのが早いなー。一月はいぬ、二月は逃げる。
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そんなバタバタの一月、遂にお弁当に冷凍食品を使ってみた……というより「今月は冷凍食品弁当だ!」と決めて朝の料理を止め、超時短を狙ってみた。卵焼きとお浸しくらいしか作らない。

で、感想。浮いた時間を、朝寝か別の仕事が食い潰しちゃうだけだった。

詰めるだけの作業ってつまらないから、「買ったもの詰めるだけなら、そもそもこの作業必要か?」という考えが浮かんできて、弁当自体を止めてランチ代を渡して済ます体をとり始めたら、なんか子には「あ、そうなんだ……」とか超低音ボイスで呟かれるし。コスパとしても家族間交流としても、ううーん、どうかなあ。

一つ新たな発見は、弁当さえ渡せば冷凍食品メインでも、翌朝の子の「昨日のおべんと、美味しかったよ!」の反応は特に変わらないという観測結果だった。なるほどなー。大きな知見。
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* * * * *

弁当を子に喰わせる日々。
誰にも手ずから食べてもらえない悲しみを持つ主人公の本を読んだ。

今村夏子は『こちらあみ子』でガツンと衝撃を受けて、『星の子』も好きで、その後の『むらさきのスカートの女』とかはちょっと寓話風・記号化すぎて微妙な現実感が減っちゃったなーって少し飽きた気がしてたが、『木になった亜沙』を読んだら記号が更に進化している……ここまで来たらなんか凄いと面白く読んだ。

『木になった亜沙』(今村夏子)

亜沙の誰にも食べてもらえない悲しみ、七ちゃんの誰にも当ててもらえない悲しみ……。

なんかとんでもなくニッチな悲しみだなあ!っては思うけど、悲しみってそういうところがあるのかも。みんなそれぞれの胸の内でクローズアップ&異形にカスタマイズされてて、誰とも分かち合えないってところが。

最後の一編、ずるずる這い回って移動する女なんてイメージ的には望月峯太郎の『座敷女』みたいでゾワっとくるけど、当人の内面は呑気なもんっていう不整合さ。
この話の、どこか不穏だけど呑気な不条理夢のような世界が、始まりも終わりもなだらかに境目なく普通の生活に繋がっている感じは、現実にも抱えている人は結構いそうな気がする。確かにあった出来事や日々だけど、共有した人たちも場所も消えてしまって、今の世界とは全く切り離されてしまったアレが、現実だったか夢だったか歪曲された別のものだったか、ふんわりペンディングの形で宙に浮かんでいるだけっていう。時々思い出す、あの子らは今もどこかで這い回ったりしてるのかな、っていう気持ち。




by macchi73 | 2023-02-05 23:57 | ★面白かった本など | Comments(0)
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