乱雑ではなく混沌、映画『マイビューティフルガーデン』
2020年 05月 20日
天気が悪かったり、雨に打たれてショボショボになってる時に綺麗に見える花ってあると思わないか?
公園みたいにピカピカに手入れされてる庭の中でより、荒れ果てた庭の中でみる花が、ハッとするくらい綺麗に見えるってこともある。
……なんて、暴力的な勢いで膨らむ藪に飲み込まれつつある庭を見ながら思ったりして。
バラだと、ショッキングピンクのアンジェラが、そんな感じ。お日様の下だと元気すぎて風情に欠けるのが、雨だとちょうど良く落ち着いて。
それから庭隅に広がる、野ばら風のバレリーナ。
生垣や壁面に這うように広がる修景バラだが、お日様の下では小輪で地味な風情なのに、ちょっと暗い時なんかには、一面に浮き上がって見えて、独特の野性的な風情がある。何となく、秘密の花園の隠された入口的な。
この間まで、青い空の下で、上を向いてひらひらと咲いて軽やかな雲みたいに見えてた群星も、天気の悪い時にはしょんぼりした雰囲気だ。既に花の盛りも過ぎつつあり、こんな風に少し萎れて下を向いた感じも割と好き。
あと、群星は、花の盛りの時よりも、萎れてきた時の方がモワッと気怠い良い香りが強くなる気がする。花にも人にも、終わり前の魅力ってある。
なんて悦に入っていた怠惰な庭主だった私を、反省させた映画。
荒れた庭も好きだけど、やっぱり、丹念に世話された庭の美しさは別格か。ただ、時間がかかることだからなあ。一朝一夕で、はい、ビューティフル・ガーデンでござい!って風にはなかなかできないんだよね。手遅れの季節の前で、途方に暮れ中。
『マイ・ビューティフル・ガーデン』(DVD)
几帳面で人慣れない主人公が、ふとした出会いで世界を広げていく……っていうストーリーは、割とありふれたものなのでそこまで出色のものではない。だけど、とにかく庭が良かった。自然いっぱいの広大な庭っていうよりは、こう、壁に囲まれた箱庭風の空間なんだけど、こういう閉ざされた庭ってのもゾクゾクするな……。見ていてちょっとジンとした。
物語冒頭の、庭仕事をしない主人公の庭の荒れ果てぶりが、まずはリアルで「うへえ」と思った。隣人から、植物殺し、景観を壊す人間として非難された時には、身がすくむ思いで一緒に心の中で謝った。
それから、整備に手をつけて、やや片付き始めた様子を見て、「うんうん、うちの庭の荒れレベルもこれくらいかな。こういう荒れた美しさってのもあるよね」みたいにニヤついた。
そして中盤、隣人の丹精込めた美しい庭に招き入れられた瞬間、「うわあ!ごめんなさい!!」と猛省した。荒れた庭も美しい、でも愛情込めて世話された庭はやっぱりもっと美しい……!すっかり忘れていた。私の庭にもこういう幸せな時代があった。小さい子供達と一緒にたくさん時間を過ごして、細やかに色んなものをケアしていた頃が。
付け加えて言えば、庭だけでなく、映画に出てくる屋内がどれも美しい。主人公の職場の図書館も、隣人の緑溢れる豊穣な室内も、主人公の大事なプライベート空間である室内も。ステイ・ホームのこの折、屋内の落ち着く美しさって本当に大事だと思う。幸福度に大きく関わる。ぜひ参考にいたしたい。
原田りえさんの字幕も良かった。次々挙がる花の名前から、隣人の庭の植栽が想像できるはず。どの花もありふれたものだけど、それらが集まった時の混沌の美しさ、庭好きならみんな知ってることだと思う。
ここにはカンナ
目が痛くなるほど鮮やかなダリア
この華やかな紫のサルビアは霜が降りるまで咲き続ける
そしてバーバスカム
ここにはマツヨイグサと芳しい緑のクサソテツ
クレマチスは他の植物に巻きついている
スイートロケット
見ろ
美しいトリカブトの毒は人間を殺せるほどだ
実に興味深い矛盾だろう
黄金のように輝くユリ
ペルシカリア
ニコチアナとタチアオイ
おいで
ベゴニア
優雅なアガパンサス
たくさんあって数え上げればキリがない
美しい秩序を保った混沌の世界だ
乱雑ではなく混沌
その差を知らないと私たちは遠くに進めない