エピソードの標本ドリンク、マイノリティ・レポート『悪夢機会』
2018年 11月 29日
自家製サワーのうち二つが、やっと飲み頃になったんだった。
このところ、散歩やアウトドアでの拾いものや頂き物、庭仕事の収穫物なんかを、色々なお酒や酢に漬け込んでいたんだよね。イベント名・日付・飲み頃を書き込んだラベルが貼られたガラス瓶が、棚の上にずらっと並んでいる。
同じ日に見つけた果実は一緒の瓶に漬け込んだりして、ドリンクっていうよりは、楽しかった出来事の標本のつもり。
おおー美味しい!どっちも好き!と、子どもたちに嬉しそうに言われて、私も嬉しい。全然違う、味と香り。
「どんどん飲んで良いけど、ちゃんとラベル見てね。こっちの模様入りガラス瓶が子どもたち用ので、こっち側の丸瓶は大人用のお酒だよ」と子どもたちに注意したら、もう自分たちはお酒も飲める年だけどねーと上の子たちに笑われて、あ、そっかと小さな驚き。
『子どもたち v.s. 親たち』というグルーピングで常に認識していたが、同時に『成人 v.s. 未成年』というグルーピングも我が家には存在しているのだった。未成年は年の離れた末っ子一人きり。
急にふくれる末っ子。家族の中で自分一人だけが飲めないものがあるという事実。
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少数派、という単語でいつも頭に浮かぶのはP.K.ディックの『少数報告』。映画『マイノリティ・レポート』の原作の短編だ(映画、みてないけど)。
二転三転の未来の可変性のオチの面白さとはまた別に、自己の意思や行為というのは当事者にとってはいつも特別で一般化はできず、どんな凄い根拠で予言されても妥当性について納得する材料にはならないよなと、身にしみて感じさせる設定だった。
『悪夢機械』(フィリップ・K. ディック)
ディックは十代半ばの1,2年くらいで長編・短編全部まとめて一気に読んで、そのあと殆ど読み返してないので、いろんな話がごっちゃになって「ディック世界」としてのイメージだけが鮮やかに残っている気がする……。何が本当だかわからない、真偽が重なりあって揺れまくるカオスで不安なアメリカンな世界。そこで右往左往する、ちょっと情けない感じの、でも不屈の主人公たち。
だいぶうろ覚えだけど、『悪夢機械』の中では、ロケット旅行のコールドスリープ中に何度も何度も悪夢をループして苦しむ悲観的な男の夢に、何とか介入して気晴らしさせてやろうとするロケット管理AIのトホホな苦労を綴った話が好きだった。怖くて悲しくて絶望的なような、でも可笑しいような話。