2016年 06月 19日
夏の夜の匂い(毎年恒例の)
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泊りがけの仕事で、夜になった。
道路から奥まった敷地でのイベントだったので、ホールから漏れてくる光だけ明るくて、外は暗い。ざわざわしたホールの扉の外に立って中を眺めてたら、スクリーンに投影されてる映像とホールに設置された照明、中で動く人たちの影が、どれもオモチャみたいに見えた。昼は真夏日だったけど、9時10時と夜が更けるにつれて、夜風が屋外から屋内に吹き込んできて過ごしやすい。少し湿った生暖かい風が、一日中動いて汗でべとべとになった頬や首を撫でていくのは、なんだか懐かしいみたいなぞわぞわする肌触りだ。

子供の時、こういう感じにざわつく屋外で映画みたいなものを見たような記憶があると、ホールのオレンジ色の光に顔を照らされて隣の人がつぶやいた。ふーん、幻燈会ってヤツですか、と言ったら、そんなに年じゃないけどねという。

後ろの方から、10年以上前によくご一緒したスタッフの人たちが懐中電灯持って歩いているらしい声が聞こえてきた。で、暗い中、その動いている灯に近づいていったら、急に暗闇が裂けたように足元までオレンジ色の線が伸びて来て、小さなスペクタクルみたいでちょっと面白く思う。暗くて見えなかったけど、そのあたりに倉庫の入口があって、ちょうど引戸を開けたところだったようだ。どうもお久しぶり、と声をかけて一緒に作業を手伝ってみたが、会話しながらも彼らだけヘッドライトをつけているせいで眩しいばかりで顔がよく見えず、変な感じがする。夢の中の人たちみたい。

なんだか甘い匂いがするね、なんだろ、クチナシですかね、あなた相変わらず裸足でラフだね、蚊が出てきたから痒いですね、足刺されると嫌だよね、なんて徒然と話しながら作業。

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帰宅して、翌日は寝て過ごそうと思ったけど、末っ子に朝7時前に叩き起こされた。
インターネットに繋いだゲーム機に向かい、仮想空間の「フェス」とやらに付き合う。まあ、私はタオルケットに包まって、寝そべって見てるだけだけど。たまに、ファインプレーした時、娘がチラッと得意そうに振り向くので、グッジョブ!と指をたてる要員として動員されたっぽい。大きなモニタに映し出される景色は、ちょっと不思議だけどリアルで綺麗。こんな世界、散歩してみたいよなあ……とか思いながら、ぼんやり見てる。ゲームの映像も、進化したもんだよなあ。

それから、泳ぎの練習したいというので、自転車乗ってプールに行った。
お母さんは寝不足で心臓ドキドキしてるから泳ぎやばいよ……とか話しながら、曇天の中、ランチ食べたり、ちんたら500mくらい泳ぐ。そうして、雨がポツポツ降ってきたかな?っていう天気の中、また自転車漕いで帰宅。天気のせいで、なんとなくずっと薄暗い。

で、気づいたら、リビングのソファで寝てた。

家の中、すごく静かで、もうかなり暗い。夫が床に伏せるように倒れている。おーい、大丈夫?と覗き込んだら、小さくイビキかいてた。それから末っ子を探したが、どの部屋にもいない。あれ?と思って、トイレもお風呂も探したが、どこにもいない。

こんな時間に外に出たのかな?と玄関を見たが、靴はある……。嫌な感じがして、夫を起こして、娘ってでかけた?と聞いたが、知らないという。もう一回、キッチン、寝室、オーディオ部屋、私の部屋、風呂、トイレ、二階に上って子供部屋全部に入って、家中のベッドめくって、納屋も物置も確認して、でもやっぱりいない。ちょっとドキドキしてきた。

バンバンバン、と窓やら扉やら開けて外も見て、それから庭に出て、ピノー!ピノ、どこにいるー!?と叫んだら、「うーん?」と、屋根の上から声がした。見上げたら、末っ子が屋根の縁から顔を出すのが少し見えた。屋根の上、金木犀の大木の樹冠に隠れるような場所があり、そこにマットをしいて寛いでいたようだ。一気に脱力。それから笑った。そういえば、先月くらいから、良い場所あるから今度見せてあげる、一緒に登ろうって言われてたな……。

ホッとして暗いリビングに戻ったら、開けた窓から甘い匂いが流れ込んできた。あ、これは昨夜も嗅いだ匂いだ……と思って窓から顔を出したら、窓辺から見える藪の中に、ずらっと百合の蕾が並んでた。幾つかの花はもう咲いている。あー、そうそう、この匂いは百合だった。毎年、姿を見るより先に匂いで気づくんだ。

それでみんなで今年初の冷し中華を食べた。すっかり夏の夜。
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夢の中みたいなざわざわした夜と、幻燈会という単語で思い出した本。

『少年アリス』(長野まゆみ)

長野まゆみを読むなら、やはりまずはこの本から。

旧仮名遣いっぽい懐古的だけど読みやすい幻想的な文章、お行儀の良い少年たちの独特の口調、やたら漢字で表記される鉱物や植物たちの名前、夜の学校……と、文学少女の心にヒットするものがぎゅうぎゅうに詰まっている。さらに、登場人物の名前が、「蜜蜂」とか「アリス」とかいうのにノックアウトされること間違いなし。

何十年も前に読んだ、いかにも少女趣味な分野ではあるけど、でもたぶん大人になった今読んでも面白く思えるクオリティだったと思う。ってか、思い出したら、また読みたくなってきた……。
「アリス、ちょっと出てきてくれないか。」
蜜蜂の声だ。アリスは部屋の外にある露台から乗り出したが蜜蜂の姿は見えなかった。古い石造りの露台の柱には、凌霄花(のうぜんかつら)の蔓が絡みついている。昼間の咲き残りの花は水盤のごとく零れ落ちる月明かりを集めていた。蜜蜂は多分この木の下にいるのだろう。耳丸が草を噛む音がする。
「何だい。もう八時過ぎだよ。」
アリスは見当を付けて露台の下に向かって声を掛けた。
「うん。」蜜蜂は口ごもる。
「どうしたんだ。」
「これから学校に行くところなんだ」


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by macchi73 | 2016-06-19 23:55 | 【その他】日記 | Comments(2)
Commented by nor at 2016-06-21 09:30 x
 うちの庭で香る植物は、春のクチナシ、夏のユリ、秋のキンモクセイ あと1年中香っているのが パクチー(香菜シャンツァイ・コリアンダー)です。
 昨年の春に種を蒔き、ひと夏で縦横高さ1メートルぐらいに育ち白く小さな花を大量につけました。秋には小さなパクチーが庭中に広がってこぼれ種から大量に発芽している事に気付いたのです。冬の寒さで枯れるだろうと高をくくっていたら春先までしっかりと生き残り、今では大小様々な株がアノ独特のにおいを醸しています。家族では私だけしか食べないので(実質収穫調理も不可能なので)増え放題です。大きく育ったものから開花時期を目安に処分すれば絶えていくとは思うのですが、なかなか実行に移せないでいます。ウコッケイの餌になっていますから。今のところ香りは卵に移ることは無いようです。
Commented by macchi73 at 2016-06-27 01:07
norさん>
あれ?パクチー、そういえば毎年生えてくるんだけど、今年は見てない気が……。
うちはけっこうみんなパクチー好きなので、零れ種で増えるあの性質は大歓迎してるんですが。

花、いっぱい咲くと、すごく綺麗ですよねー。


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