2012年 06月 08日
子どもを騙す
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庭隅に小人への手紙が置いてあった。
小人の住処を見つけた娘が書いたものだった。

鉛筆が添えられ、裏に返事を書くことを求められていてる。
うわ、どうしよう。異種間交流を求めてくるとは。急にオロオロしたりして。

結局迷った挙げ句、手紙の裏には、植物の汁で小さな水玉をいくつか残しておいた。
露草の青、矢車菊の紫・ピンク・水色、ドクダミの葉の緑、バラの赤。けっこう発色が良い。

これが子供に対して決まり悪くなる一歩手前の、ギリギリのライン。
小人の形跡を残すのは良いけど、小人に成りすましての語りはまずいよな? なんとなく。

娘には、ホーキング博士に倣って「小人との接触は考え直した方が良い」とでも話してみるか(嘘)。

* * * * * * * * * * * * *

子どものピュアな心と、成長ということについて考える。

『くらやみの速さはどれくらい』(エリザベス・ムーン)

自閉症の治療が可能になりそうな近未来で、自閉症のルウがした選択とその結果とは?という話。

キャッチコピーは、21世紀版『アルジャーノンに花束を』だったらしい。
確かに構成が似てる……けど、こちらはそっからもう一ひねり、ぐるっと旋回する感じ。

この世には「ピュアな弱者、聖なる愚者」系物語というカテゴリがあると思う。
有名どころで『ハツカネズミと人間』とか『アルジャーノンに花束を』とか。
純粋な心を持った弱者の悲劇によって、この世の過酷さなんかが浮き彫りにされるというストーリー。本当に書かれているのは弱者そのものではなくて、彼らを鏡として映し出されるこの世界、っていう仕組みだ。

しかしこの話は、そんな「ピュア弱者」定番の筋書きを、ピョロッとはみ出している。
ええっ、そう行っちゃう!?って、ある意味、ルウに裏切られ、置いてきぼりをくらった気がするかもしれない。
これは、作者のエリザベス・ムーンには実際に自閉症の息子がいるってのが大きいんだろうな。
ムーンは、弱者という鏡に映し出される社会ではなくて、ルウを含めてーールウの中でもーー刻々と動いている世界そのものを書きたかったんだと感じた。

物語の中のピュアな弱者って、ある時期の子供に似てる。
子どもには、「人には優しく」とか、教えられたことを守ろうと一生懸命な時期があったりして、その非力&可憐な佇まいと相まって、「なんて純粋なんだ!」と大人に涙させたりする。
でも実際のところ、本気で子供を「このままずっとピュアなままに留めておきたい」なんて思う保護者はいないだろう。
ピュアって一番重要なことではない。というか、周囲にとってはいざ知らず、本人にとっては全く重要なことではない。

読んだ後、「あなたは今のままで良い」ってのは「変わりなさい」ってのと同じくらい、期待に満ちた言葉である場合もあるんだなーと思った。ルウを好きになって、期待してた読者としては、結末、寂しかったけど……。
が、どの期待にも応える必要はない。万歳!

また全然別ものかもしれないけど、『トーチング・トリロジー』の「死んだ人間のことは愛し易い」って台詞を思い出した。
自分を動作主として考えると、死んだ人間と弱い存在って、同じように愛で易いかもなーと思って。
でも、自分が置かれる立場として考えると……どっちにも、甘んじにくいよなあ。

それとタイトルについて。
語感も良く、物語中でも何度か繰り返されたフレーズだったが、恥ずかしながらピンと来なかった。
物事は本質として変化・運動・成長を内包している。だから可視できる限界の先にある暗闇にも、速度は内包されている、ってことかな?

登場人物では、保身を計りつつ、でもできる範囲でルウたち自閉症者の便宜を図ろうとするショボイ係長みたいなおっさんに共感した。誰にも大して感謝されないのがまた良し。


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by macchi73 | 2012-06-08 23:58 | 書籍など | Comments(15)
Commented by pammichi at 2012-06-09 14:36
ギリギリ ホント辛いところですね
でもいつか本当に手紙がきたりして♪
macchiさん宅のお庭って 本気でそう思える雰囲気がありますよ
Commented by マーサ at 2012-06-10 14:02 x
娘様は何歳なのでしょうか…。
素晴らしいご教育の結果を拝見出来て嬉しく存じます♫
素敵過ぎます♥
やはり子供は夢を見る生き物なのですね♫
でも、お返事は困られたことと存じます( 汗&笑 )
お邪魔いたしました☆
Commented by macchi at 2012-06-10 14:48 x
パムさん、
そう、手紙は辛いですよね……。冷や汗をかきました。
浮かれる娘を見て、面白いような・ちょっと遠巻きにしてしまうような気分です。

でも、最近、庭をパトロールしては、「これってもしかして小人が!?」という娘の想像話を聞くのは楽しいです。
いやこれは小人じゃなくてモグラの穴だよ、これはトカゲの尻尾だよ、と説明すると、
「でも、モグラに綱つけてトンネルを移動してるかも……こういう風に」
「トカゲの尻尾は何回でもとれるから肉みたいに食べてるのかも……トゲで狩りとかして」とか。

あんまり作為的にせず(と言っても、まだ小物のストックがあるんですが)、自然のままにしとくのが
一番気楽で面白いなーと反省中です。
Commented by macchi at 2012-06-10 14:57 x
マーサさん、娘は6才です。
自分がサンタとか小人とか信じたことが無いので、うちの子たちはどういうつもりで
そういうことやってるんだろう?と、不思議な感じがすることがあります。
本も読むし、そこそこ物が分かってそうなのに……。やってること見ると真剣そうで。

多分、まだ子どもの中では、何かを信じる・信じないって明確なラインは無くて、
何でも「あるかもしれない。あったら凄い。試してみよう」っていう曖昧な感じで
何でもアリなのかなあ。と想像します。
Commented by あけみ at 2012-06-10 17:04 x
あぁ、もう切ないくらい可愛い。

難しいところですねぇ、ホント
私も、サンタクロースでは同じような葛藤が(笑)

小人さん・・・いてほしいなぁ
あの完成度の高すぎる家、罪作りだなぁ。(笑)

お庭って、改めて、いいものですね!
Commented by ARMY at 2012-06-10 21:54 x
はじめまして。
以前よりこっそり楽しみに読ませていただいています。

心温まるお話に涙があふれます。本当にしあわせなご家庭ですね。
小人からの返事が水玉、、なんて素敵なんでしょう!!
これからも楽しみにしています♪
Commented by macchi at 2012-06-10 21:54 x
そう、サンタも加減が難しいですよね。
余り作り事めいたことをしてしまうのも、小っ恥ずかしく。

小人の家は、作るのが楽しくなって、子どものためじゃなくて自分のノリで作ってしまいました。
どう収拾つけるかも考えずに、ノリでやると、後で困りますね……。
Commented by macchi at 2012-06-10 22:00 x
ARMYさん、はじめまして。
水玉、良かったでしょうか。苦肉の策でしたが。
何か聞かれるかなーと思って身構えてましたが、娘は勝手に納得してて安堵しました。

一瞬、「すがたおみせて」のところに 「←『お』じゃなくて『を』だね!!」なんて、赤ペン先生みたいなことを書きたくなったんですが……我慢して良かったです。
Commented by 姫音 at 2012-06-11 19:29 x
かわいい~~~~っ!!
今時の子って変にリアリストだったりして可愛げがなかったりなんてこともあるのに、
macchiさんのお子様は本当に純粋でとってもとっても可愛いですねv
うちの子もそんな風に育ってくれないかしら。。。

親としての優しい嘘もどこまでつくかって難しいんですねぇ。
Commented by fafi at 2012-06-11 20:17 x
はじめまして。小人のお家の続編、なんてすてきな展開!

大人になっても楽しいことはたくさんあるけれど、子供時代のどきどきわくわくしすぎて脳みそがキューッってなるような感じ、お子さんはまさに今その真っ只中なんですね。
返事を裏に求めてるところがまた切なくていいです(笑
お返事の落としどころも絶妙で感心しました。

ご紹介の本、おもしろそうですね。
うちの娘も自閉症なので、ぜひさがして読んでみます♪

p.s.先日より更新楽しみに読ませていただいてます。
拝ブログのお気に入りに登録させていただいてよいでしょうか?
Commented by macchi at 2012-06-12 06:52 x
姫音さん、
いやー、どうなんでしょうね。
ファンタジー=純粋でもないような。
家で自分の子どもだけ見てると可愛いとか思いますが、他の子たちが遊びに来たりすると、
なんて良い子なんだ!とか礼儀正しいんだ!とか、びっくりします。
そしてハッと親バカが外れ、うちは野放図だと気付くという……。
リアリストの子って面白くないですか。私は案外好きです。「お、すげー」とか思ったりして。
Commented by macchi at 2012-06-12 07:02 x
fafiさん、
今、『くらやみのはやさ……』の中にチラッと出て来たテンプル・グランディンって学者の『動物感覚』っていう本を読んでいて、自閉症の学者が書いた動物行動心理の本なんですが、すごくユニークで面白いです。
ブログも拝見しました。
タナセタム、うちでも今年初めて咲いて、グラウンドカバーに良いなーって思ってたとこです!
お気に入り登録どうぞよろしくです。
Commented by mu at 2012-06-12 12:53 x
小さい子供がいると、こういう遊びが試せて楽しそうですね。
私は子供が居ないので、夫に、たまにこういういたずらをして楽しんでいます。

夫が抜け毛を気にしていたピークの頃に、集めた髪の毛を枕にそれとなく、しかし、明らかに数多く散らしておいて、どんな反応をするのか見たり…。
こっそりと反応を見るのが楽しいのです。

しかし、娘さん、返事を要求するあたり、小人が実在するのかしないのかの確認に余念がないですね。確実性を求めているのかな?

添えられた鉛筆の絵柄と色彩の毒々しさに、夢見る乙女な雰囲気が打ち消されているような気がして、何となく近づきやすさを感じます。
Commented by macchi at 2012-06-12 22:01 x
muさん、抜け毛コワ!
旦那さん、ヒッと思ったことでしょう……。

鉛筆、言われて気付きました。ホントだ、なんか凄い柄ですね〜。はは。
可愛い小人と思って遭遇したら、こんな姿だったら面白いかも。

今朝は娘曰く、いつも小人がいそうなところを覗くとダンゴムシがいる。
夫が答えて、もしかして小人ってダンゴムシなんじゃ?
で、ダンゴムシってすぐ丸まるし、実は小人の擬態が混じってるかもよ?ってな話になってました……。
Commented by fafi at 2012-06-12 22:48 x
さっそく登録させていただきました、ありがとーございます!

動物感覚は図書館にあったので予約を、くらやみの・・・はamazonでなぜか送料込251円だったので注文しちゃいました。

タナセタムジャックポットは、おぎはら植物園でおすすめされてたので、なんとなく買ってみたら大当たりでした。
うちは朝の光が一番よく当たる庭なので、花壇の植物がどれもすごく前のめりになるんです(笑
なので、見た目が可憐なのはもちろんのこと、こういう茎がかっちり堅い植物は助かります♪


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