2011年 03月 07日
雪の日、熊を考える
ニクーリン・サーカスに行ってから、すっかり熊フィーバーしている我が子たち。軽薄也。
熊だって猛獣なのだ。舐めてはいけない。
可愛いなんて言っていてはいけないのではないか。
サーカスで見た熊の姿は自然ではない。

その辺をガツンと語ってやろうと思い、日本獣害史上最大の惨劇を描いたドキュメンタリー小説である『羆嵐』を読んでみた。
事件の概要はこちら:wikipedia)

……恐い。
淡々としたドキュメンタリーなのに、脳裏に浮かぶのは横溝正史チックな情景。

一度食べたら美味しかったからといって、人間の女性だけに異常に執着する熊なんて、あんまり怖過ぎじゃないか!?
表紙の絵だって、ドキュメンタリータッチじゃ無いよな。クマじゃなくてアクマみたいな顔してる。

読む前には、「熊を侮るなよ!」という戒めのために子どもたちにも読ませようかと思っていたが、止めた。
横溝ワールドを母親に勧められた時の子どもの気持ちを考えたら、朗らかではいられないかもなーと思ったので。
でも、決して残酷シーンがメインの本ではなく、よく調べて書かれた実録小説(昭和文学風味)だとは思う。


うーん、熊怖い……。
時折の山歩きをレジャーとする身としては、こんなびくびくした気持ちのままではいられない。
自衛策として『クマにあったらどうするか』を読むことにする。


これは良書だ。
今後クマにあったら私はどうするかと言えば、次のようにする:

●絶対に、背を向けて走って逃げない。
●クマに目を据えてできるだけジッとし、あればヒモ状のものをクネクネと振ってみる。
●それでも組み敷かれてしまったら、腕をクマの口に突っ込むなどの反撃を最後まで試みる。腕一本くらいでは人は死なない(そうなの?)。諦めるな!
●逃げる時は、クマと自分の間に何かを引きずるようにして立ち去る。
●でも上記はただの方針で、肝心なのは、今、自分がどんなタイプの熊とどんな状況にあるのかをよく見ること。

なんだよそれーってな感じだが、一々ちゃんとした理由があるのだ。これから山歩きする時には復唱してから出かけようっと。


面白かったので、もう少し詳しくメモっとく。
この本はアイヌ民族最後のクマ撃ち猟師、姉崎氏へ数年間かけて行ったインタビューをまとめたものだ。
インタビュー形式って、いまいち入り込めなくて退屈を感じることが多かったが、この本は違った。
対話を越えて、話されている事件やクマの動作が、臨場感あふれる映像として浮かんでくる。

姉崎氏のキャラクターが面白い。
熊を自分の師匠だと言い、一人きりで、熊になりきって森を歩き回る。
クマを獲物として追いつつも、同時に尊重もしている感じが、話の端々から伝わって来る。
例えるなら、ルパンを追う銭形のような……。

あと、インタビュアーもしつこくて良い。
一度聞いた話について、戻ってから気になる点があれば何度でも舞い戻る。
細かいこと気にする奴だなーという感もあるが、本当に興味を持ってるんだなーと感心してしまう。やはり、強い興味を持って書かれた本は面白い。

読者の気を引く質問形のタイトルをつけておいて、中身はさっぱり答えになっていない本というのも多々あるが、この本は「クマにあったらどうするか」という設問にもしっかりと答えていたのも好感度大。
クマに襲われて助かったケース、ダメだったケースを色々と網羅し、そこから見えてくるクマの習性は興味深い。

基本的には、クマも人間を怖がっているという点を肝に銘じておくのが大事みたいだ。
何故に強いクマが弱い人間を怖がるのかというと、野生動物というのは周りを気にして動くものなのに、無神経に歩いている人間たちを見れば、よっぽどあれらは強いんだろうと動物たちは判断すると言う。
クマでも倒せない大木を、斧やらチェーンソーやらで倒す人間の技。
小さな毒矢で仲間のクマたちを倒すアイヌの狩人。
そんな場面を見続けてきた動物たちが、人間を「なんか変な力があって嫌なやつらだな」と思っているというのは、説得力ありそうだ。
森を歩く人間からは野生動物の姿は見えないけれど、動物たちは、気配を消してジッと人間を見ているのか……。

それに思うに、全身毛皮に包まれた獣達から見て、ヌメッとした地肌むき出しで、変なとこだけ毛が生えてる人間(しかも後ろ足だけでトコトコ歩く)って、結構、見た目的にも気色悪かったりするんじゃないのかな。

ところで、『羆嵐』の事件を裏付けるように、姉崎氏も「一度人を襲って人間の弱さを知ってしまったクマは、人を何度でも襲うから、なんとしても絶対に殺すしかない」と言う。アイヌの風習でも、そんな風に決まっていたようだ。
でもそうやって攻撃性の高い個体は淘汰されてきたから、逆に、今いる多くのクマの気性は臆病なのではないかという説も面白かった(これは姉崎氏ではなくて聞き手の推論だったかも)。

とりあえず、この本を読み終えて強く感じたことは、クマも自然の中で生きる野生動物の一つなんだなーと言うこと。
森の中では、熊も鹿も栗鼠も同じように暮らしていて、そこに人間もたまに出たり入ったり……。
クマはやはり恐いが、同じ土地で共に生きる仲間でもある。
そう思うと、『羆嵐』のオドロオドロしい横溝ワールドからは脱出できた。

ま、だけどよく考えたら、本州にはヒグマはいないんだよね。
遭遇する機会は多分無いんだろうな(と祈る)。
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by macchi73 | 2011-03-07 00:50 | 面白かった本など | Comments(0)


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